【インタビューを受けた人】
MS&AD ビジネスサポート株式会社 能城 功様
【インタビュアー】
ホワイト財団 岩元 翔
代表取締役社長 能城 功様
MS&ADビジネスサポート株式会社は、大手企業向けにバックオフィス業務の効率化を実現するシェアードサービスを提供しています。650名以上の社員が、その業務の基盤を支え、給与計算や福利厚生手続き、証明書発行、さらには社内物流や設備管理まで、幅広い業務をカバーし、クライアント企業の負担を軽減し、専門性を向上させています。
その成長を牽引するのが、同社の代表取締役である能城氏。今回は、能城氏にインタビューを行い、ホワイト企業としての在り方や企業運営に対する信念、そして今後のビジョンについてお話を伺いました。
MS&AD ビジネスサポート株式会社のポイント
・「現場目線」を貫く能城社長の経営スタイルの原点とは
・「年齢は成長の壁にならない」 経験を活かしてキャリアを築く仕組み
・成長を全力で支援し、挑戦する人を決して一人にしない企業文化
── 岩元:まずはじめに、能城社長のご経歴を教えてください。
能城社長:1984年、新卒で大正海上火災保険株式会社(現在の三井住友海上)に入社しました。
入社後は首都圏での勤務を経て、約5年間ブラジルに駐在。その後、帰国してからは営業を中心に、人事や海外勤務など幅広い業務に携わりながらキャリアを積んできました。そして2023年、MS&ADビジネスサポート株式会社の代表取締役社長に就任しました。
── 岩元:豊富なご経験をお持ちですが、その中でも現在の経営観に大きな影響を与えた出来事や印象的なエピソードはありますか??
能城社長:特に、ブラジルでの5年間が現在の経営観に大きな影響を与えた経験でした。それは、良い意味でも悪い意味でも“反面教師”となる出来事が数多くあったからです。
この経験を通じて、会社を牽引するリーダーとして何が大切かを学び、「これだけはしてはいけない」という強い教訓を得ることができました。その教訓は、今もなお私の経営の「軸」となり、判断の指針となっています。
── 岩元:転機となったブラジルでの出来事についてお聞かせいただけますか。
能城社長:30歳のとき、3社合弁企業の営業担当者としてブラジルに派遣されました。経営層は、日本の2社から選出された2名と現地企業の取締役2名を含む計4名で構成され、約400人の社員が働く現地法人でした。
しかし、私が赴任した当時、ブラジルはちょうどリセッション(景気後退)に突入し、年間5800%に至る信じられないインフレに見舞われていました。
日本では想像しにくいかもしれませんが、極端に言えば、今日1000円で買えたものが1か月後には5000円になるような世界です。急遽発令された通貨政策の影響も甚大で、キャッシュの価値が猛烈なスピードで下落していき、見た目の売上数字が上がっても、経営は苦しくなるばかりでした。
超ハイパーインフレ経済下での信じがたい通貨政策とその影響を早期に認識し対策を打つことは難しく、逼迫した現場と経営層の認識や日本サイドとの温度差は拡大しました。
そして、経営悪化が進む中で、最も早急に取られた対策は「人員削減」でした。
ブラジルでは解雇が比較的容易であり、毎月のように社員がリストラされていきました。その中には、わずかな給料で大家族を養うために懸命に働く優秀な社員も多く、彼らが職を失うことになるのは、現場としても非常に心苦しいものでした。
しかし、経営の都合で彼らが職を失う現実を、どうすることもできませんでした。1人がいなくなると、当然、残った社員の負担は増え、その負担に耐えきれず辞めていくという悪循環が続きました。
── 岩元:経営層の判断の遅れや温度差が現場に与えた影響をどのように感じましたか?また、能城社長の「経営」に対する考え方へどのように変化をもたらしたのでしょうか?
能城社長:経営判断を誤ると、社員の生活にどれほど大きな影響を及ぼし、悲劇を生むのかを痛感しました。現場の声に無知・無視した経営は必ず歪みを生み、最終的には組織全体に深刻な影響を与えることを身をもって学びました。
同時に、「努力や成果が正しく評価される環境を作らなければならない」という考えも私の根本的な価値観となりました。どれだけ努力しても、それが正当に評価されなければ、人も組織も成長しません。
あの5年間の苦しい経験がなければ、今の私の考え方や経営姿勢はなかったかもしれません。それだけ、あの時期が私にとって大きな転機であったと言えます。
── 岩元:能城社長が考える「良い会社(ホワイト企業)」とはどのようなものですか?
能城社長:「良い会社」というのは、言葉で簡単に定義できるものではありません。しかし、私が大切にしているのは、現場の声を反映し、社員が本当に働きやすい環境をつくることです。
当社では新卒採用を行わず、平均年齢50歳以上の社会経験豊富な社員が活躍しています。長年培ったキャリアを活かしながら、さらに成長できる環境を求める方にとって、最適な職場でありたいと考えています。年齢に関係なく挑戦し続けられる会社を目指しています。
ホワイト企業認定を取得したことは、一つの成果だと捉えています。しかし、それだけで満足するのではなく、認定をきっかけに入社した方が「この会社でなら、まだ成長できる」と実感できる環境をつくり続けていきたいと考えています。
── 岩元:ブラジルでの経験が「良い会社」をつくる基盤として反映されているのですね。
能城社長:その通りです。経営陣は常に現場の声を「傾聴」し、経営判断をする際にはその意見をしっかりと踏まえなければなりません。
また、会社の方向性が不明確にならないよう、決定事項は必ず現場にフィードバックし、全員が同じ目標に向かって進んでいることを実感できる環境をつくることが重要です。
「自分たちだけで決める」のではなく、組織全体で共に歩んでいると感じられることこそが、ホワイト企業の第一歩だと考えています。
── 岩元:「良い会社(ホワイト企業)」を実現するために、具体的にどのような取り組みをされていますか?
能城社長:今年初めての試みとして、私を含む全役員に対して管下社員からの多面評価を実施しました。
傾聴するためには、まず社員が自分の意見や考えを発信できる機会が必要です。上司への提言がリスクになったり、煙たがられたりするような環境では、本音を伝えることができず、結果として傾聴も成り立ちません。
実際に多面評価を受けて、「自分たちは管下社員からこう見られていたのか」と改めて気づかされる部分も多く、多くの改善点を発見することができました。
社員と経営陣の間に信頼関係を築くためには、こうした本音をしっかりと受け入れ、改善に繋げていくことが不可欠です。そして、「ここで働いてよかった」と感じられる会社をつくり、組織全体が一丸となって前進できる環境を整えること。それこそが、私が目指す「良い会社」であり、「ホワイト企業」の姿です。
── 岩元:MS&ADビジネスサポート株式会社の強みを教えてください。
能城社長:当社の最大の強みは、MS&ADグループのBPO部門として培った豊富な知識と、グループ全体でのナレッジ共有にあります。
このビジネスモデルを活かし、業界における高い専門性を誇る業務支援を提供しています。具体的には、グループ内で成功した事例や最適な業務プロセスを社内で共有し、業務の効率化や品質向上を実現。これにより、クライアントに対して常に高い価値を提供しています。
さらに、グループ全体の横断的なナレッジ共有により、単独の企業では得られない広い視点から業務改善を進めることができ、組織全体のパフォーマンス向上につなげています。この仕組みを通じて、より高度な業務最適化を実現している点が、大きな強みです。
── 岩元:では、能城社長が思うMS&ADビジネスサポート株式会社の課題を教えていただけますか?
能城社長:先ほど強みとしてお話ししましたが、大手グループの一員であることが、時に弊害となることもあります。
特に、「親会社の一部門として業務を遂行する」という意識が根強く、自社が提供するサービスや提案の影響力を十分に認識できていない場面がしばしば見受けられます。
しかし、私たちは単なるBPO受託企業にとどまらず、クライアントの業務改革をリードし、事業成長に貢献する強力なパートナーであるべきだと考えています。その認識が社内にしっかりと根付くことが、さらなる成長を遂げるための重要な鍵となります。この意識改革こそが、当社の今後の大きな課題です。
── 岩元:課題を解消するためには、どのような取り組みが必要だとお考えですか?
能城社長:社員が主体となり、やりたいことに挑戦し、それを実現できる環境を整えることが、非常に重要だと考えています。
挑戦を恐れず、積極的に新しいアイデアを提案する風土が根付けば、自分の仕事に責任感と誇りを持つようになります。その結果、自己成長を実感し、それが次のステップへとつながります。そして、最終的には組織全体の力となります。
こうした風土を築くためには、ボトムアップの意見をしっかりと反映させることが不可欠です。また、意欲ある方を正しく評価し、その成長を支援することで、さらに意欲を引き出し、組織全体の発展につなげていく。この相乗効果こそが、企業の成長にとって最も重要だと考えています。
── 岩元:『社員が主体となる組織づくり』とは、どのようなものなのでしょうか?
能城社長:多くの企業が抱える課題の一つに、「既存の文化やルールを変えてはいけない」という固定観念があります。
自分一人で何かをやろうとしても、サラリーマンである以上、限界があるのは当然です。でも、どうやって周囲を巻き込むのか、組織をどう活用するのかを考えれば、会社としての判断を動かすことができます。大事なのは、自分だけで解決しようとするのではなく、周りを巻き込む力を身につけることです。
そして私たち経営者の使命は、社員が失敗を恐れず、既存の枠にとらわれずにアイデアを実行できるようサポートすることだと考えています。
── 岩元:挑戦したい気持ちはあるものの、なかなか実践に移せない方もいらっしゃるかと思いますが、能城社長はどのように接していますか?
能城社長:「失敗したらどうしよう」「自分のアイデアがうまくいかなかったら…」 という不安を抱く気持ちはよくわかります。
しかし、立ち止まるのではなく、まずは一歩踏み出すことが大切です。たとえ失敗しても、それを次に活かせば成長につながりますし、「挑戦した経験」は必ず自分の糧になります。
私自身、若手時代に新しいプロジェクトを立ち上げようとした際、多くの壁にぶつかりました。その時、当時の課長に「前例にとらわれなくていい。あなたが新しい前例を作ればいいんだ」と言われたことが、大きな励みになりました。その言葉が勇気をくれたおかげで、思い切って新しいアプローチに挑戦することができました。
だからこそ、当社の社員にも、新しいことに挑戦できる環境を提供したいと考えています。そして、挑戦し続ける社員を会社は全力で支え、正当に評価します。
私は、挑戦する人を決して一人にはしません。だからこそ、安心して挑戦してほしいと思っています。
── 岩元:平均年齢が50歳とのことですが、年齢を重ねると新しい挑戦や成長に対して不安を感じる方もいらっしゃるかと思います。その点について、能城社長はどのようにお考えでしょうか?
能城社長:年齢を重ねることで、成長できないということは決してありません。
むしろ、経験が豊富だからこそできる成長や挑戦がたくさんあります。皆さんには年齢に関わらず、「成長できる楽しさ」や「仕事へのやりがい」を実感してほしいと強く思っています。
もちろん、すべての社員が常に上を目指し続けるのは簡単なことではありません。年齢を重ねることで体力面の不安が出てくることもあれば、親の介護など家庭の事情を抱えることもあるでしょう。しかし、年齢だけを理由に成長を諦めてほしくはありません。
なぜなら、すべての社員が会社にとって大切な戦力だからです。
だからこそ、私たちは柔軟な働き方を提供し、一人ひとりに合った教育支援やサポート体制を充実させています。65歳までの雇用を確保しているのは、単なる延長措置ではなく、個々の可能性を最大限に引き出し、長く活躍し続けられる環境を整えることが企業の責任だと考えているからです。
── 岩元:具体的にはどのような支援を行っているのでしょうか?
能城社長:今年の4月から、60歳以降の役割や処遇を明確にし、より強力なサポートを行う新制度を導入する予定です。
現在、60歳以上の社員が全体の2割を超えており、彼らが持つ経験や知識は企業にとって欠かせない財産です。そのため、活躍の場をさらに広げ、一人ひとりがより大きな価値を発揮できるよう取り組んでいます。
特に力を入れているのが、スキルの再構築です。デジタル化が進む現代において、業務上これまでパソコンにあまり触れてこなかった職場の社員にはITスキル研修を通じて業務に必要なスキルを習得してもらいます。一方、すでにデジタルツールを使いこなす社員には、さらに効率化を進めるための自動化スキルを提供し、業務を一層スマートにしていきます。
また、上司と部下のコミュニケーションを深めるため、1on1ミーティングを通じ、一人ひとりの希望や適性に応じたキャリアパスを共に考える体制を整えています。
さらに、目標設定や年度末の達成度を測るチャレンジ制度、メンター制度、社内外の多様な研修制度を充実させることで、「今からでも成長できる」「新しいことに挑戦できる」という前向きな気持ちを持ち続けられるよう支援しています。
── 岩元:今後、さらに強化していきたい施策はありますか?
能城社長:まずは、再雇用者の新人事制度をしっかりと定着させることが第一ですが、さらに研修ラインナップの拡充を進めていきます。特に、一人ひとりのキャリアプランをより明確にするため、キャリアコンサルティング制度の導入なども検討しています。
年齢を重ねることは決してハンデではなく、これまで培ってきた経験やスキルを活かして新しいことに挑戦する絶好のチャンスです。これからも、成長し続ける社員を支え、やりがいを持って働ける環境をつくっていきたいですね。
── 岩元:MS&AD ビジネスサポートで働く社員の皆さんへのメッセージをお願いします。
能城社長:実は、役員との距離感については、まだまだ社員に遠慮が見受けられるのが現状です。社長室は常にオープンにしているので、いつでもぷらっと立ち寄り話しに来てもらって構いません。
私としては、どんな小さなことでも気軽に相談してもらいたいと思っています。そのためにも、今後はカジュアルな交流イベントを増やし、社員の皆さんと気軽に対話できる場をもっと提供していきたいと考えています。
現場の生の声こそが、会社をより良くするための貴重な情報です。だからこそ、私は「どんな意見でも大歓迎!」というスタンスで常に待っていますし、むしろ積極的に話をしに来てほしいですね。
皆さんの声をしっかり受け止め、それを会社の成長に生かしていくことが、私の責任だと考えています。
── 岩元:どのような人と一緒に働きたいですか?または、どのような方が活躍できますか?これから入社される皆様へメッセージをお願いします。
能城社長:明るく、しっかりとコミュニケーションができることは最低限の条件です。それに加えて、自己実現意欲が高く、チャレンジ精神を持っている人ともぜひ一緒に働きたいですね。
「一人ではできなかったけど、みんなと一緒に挑戦して変えられた」といった自己実現を追求したい方と一緒に働きたいと思っています。
中途採用でも入社初年度からしっかり評価し、フィードバックを行います。自分の働きが見える形になり、成長が実感できるようサポートします。
MS&AD ビジネスサポート株式会社は「自分を高めたい」「新しいことに挑戦したい」と思っている方には、そのチャンスを提供できる会社です。
取材者のレビュー
今回のインタビューで最も心に残ったのは、能城社長が常に「現場目線」を大切にしている姿勢でした。特に、かつてブラジルでの駐在経験を通じて、現場の声をどれほど経営に活かすことが大切かを学び、それを今の経営スタイルにしっかりと反映させている点には深く共感しました。トップダウンではなく、現場で働く社員の意見を尊重しながら経営判断を行うという姿勢は、一人ひとりのモチベーションを引き出し、会社全体に良い影響を与えていることが伝わってきます。
そして何よりも社員の成長を心から願い、「挑戦する人を決してひとりにしない」と語った能城社長の言葉はとても印象的でした。失敗を恐れずに挑戦できる環境が整っていることは、従業員にとって非常に大きな魅力だと感じます。そして、年齢に関わらず仕事にやりがいを持って働ける環境こそ、今の日本社会においてもっとも求められているものではないでしょうか。
日本次世代企業普及機構 代表理事岩元 翔
東証1部乗上場企業の求人広告会社にて新卒・中途採用のコンサルティング業務を学び、その後ITベンチャー企業にて自社採用業務、教育業務に従事。 2020年には一般財団法人日本次世代企業普及機構の代表理事に就任。これまでの経験、実績を活かし、経営者や従業員にとって道しるべとなる「ホワイト企業指標」を作り上げた。