【インタビューを受けた人】
MS&ADビジネスサポート株式会社
人事総務部 梶原 豊彦
【インタビュアー】
ホワイト財団 高橋 かな子
【受賞理由】
MS&ADビジネスサポート株式会社様は MS&AD インシュアランスグループ内の人事や総務等のシェアードサービス機能を担っており、社内の福利厚生制度や人事に関する施策を充実させ従業員の処遇改善に積極的に取り組んでいらっしゃいます。
取り組み内容の 1 例を紹介させていただくと、2023 年 9 月以降、物価上昇に伴う世間の人件費増加なども重なり、キャリア採用環境が劇的に悪化した中で、一部社員の処遇を改善することで採用環境を回復することに成功されました。
具体的には「新入社員の1年間のみに支給する入社時精励手当を新設することで入社初年度の処遇を改善」と同時に「入社後1年以上経過しないと人事考課の対象にならなかった制度を、入社一か月目から人事考課の対象とする」に変更を行いました。
これらの取り組みによって採用環境を改善しただけでなく入社者にもよい緊張感が生まれることで、パフォーマンスの向上が期待でき、大幅な処遇改善が難しい中でも処遇にメリハリをつけることができたことでエンゲージメント向上を実現した点を評価させていただきました。
MS&AD ビジネスサポート株式会社のポイント
・多種多様な業務の会社
・入社したばかりの従業員もしっかり評価できる制度
・挑戦をしやすい環境を作った社長からの言葉
目次
梶原様
当社は、約650名(パート・アルバイト・出向者含む)の従業員を擁するシェアードサービスを行っている企業です。主に大手企業の人事・総務業務などを代行し、クライアントが本業に専念できる環境を整えることを使命としています。
給与計算や証明書発行、福利厚生の利用申請手続きやメール便運行など、業務負担の大きい業務を効率的にサポート。また、設備管理の運営ノウハウを活かし、保険会社のビル管理や修繕など多岐にわたる業務の受託も行っています。
一見、単調な作業が多いイメージを持たれがちですが、当社が対応するのは少量多品種の業務ばかりです。その点、スケールメリットはありませんが柔軟で高品質なサービスを通じてクライアント企業から信頼をいただいています。
梶原様
当社が抱えていた課題は、コロナ禍の収束を迎えた時期に採用活動が思うように進まなくなったことでした。
当社では長年給与のべースアップを行わず、世間の物価上昇に伴なう人件費水準と当社給与水準との間に乖離が生じていました。また、賞与が前年度の働きに基づいて支給される仕組みのため、入社初年度には十分な賞与額が支給されず、結果的に新入社員の処遇が低くなってしまうという課題を抱えていました。
こうした状況の中、コロナ禍が収束に向かい採用市場が活性化した2023年5月頃、当社の初年度年収が世間相場と比較して低いことに改めて気づきました。それまで当社は、40~50歳の採用に注力し、この年代を積極採用する他の企業が比較的少ないことから、給与水準が低くても採用が順調に進んでいました。
しかし、採用市場が活性化する中で、他社が20~30代だけでなく40~50代に対象層を拡大して採用を開始。これにより、給与条件で他社に劣る当社では採用が難航するようになりました。
梶原様
そうですね。ネームバリューのあるグループ会社であることやワークライフバランスがきっちりとれている会社のため、多少給与が低くても理解してもらえるだろうという甘えた考えや、グループ会社間のバランスばかり見ていて外部の環境変化に鈍感であったのかもしれません。
しかし、2023年5月に採用が難しくなったことをきっかけに、これまでの考え方が通用しないことに気づきました。
保険業界やグループ企業の常識が、必ずしも世間の常識と一致していないことを痛感し、そこで改めて制度の見直しを行うことに至ったのです。
梶原様
行った取り組みは3つあります。
1つ目は採用環境の改善を目的に「入社時精励手当」という新しい手当を導入しました。
これは、入社初年度だけに支給する限定的な手当です。
入社1年目は賞与の金額が少なくなり、その点が新入社員の処遇の低さとしてネックになっていました。そこで、この手当を新設することで、初年度から安定した生活基盤を提供できるようにしました。
2つ目は、人事考課のタイミングを見直したことです。
以前は、入社後1年以上経過しないと評価の対象にはならなかったのですが、これを入社1か月目の社員から対象とするよう変更しました。
即戦力を期待されるキャリア採用の社員にとっては、早い段階で成果が反映されることがモチベーション向上に繋がると考えたため、こうした見直しを行いました。
3つ目に給与規定の見直しです。
以前は、55歳に給与が8割に減額される仕組みがあったのですが、これはキャリア採用の社員が多い当社にはそぐわないと判断しました。
そこで思い切って、60歳の定年まで給与が昇給し続ける仕組みに変更し、退職金も積み上がるようにしました。これで、社員が安心して長く働ける環境を整えられたと思います。
梶原様
おっしゃる通り、手当支給の有無により前年入社の社員と新入社員の間で、年収が逆転する可能性がありました。そこで、この問題を避けるために事前に対策を講じました。
例えば、前年に入社し半年間働いた社員はその半年分の賞与を今年度受け取っており、新入社員は前年の勤務実績がないため、賞与は支給され無い代わりに「入社時精励手当」が支給されるため、結果的に新入社員は賞与相当額全額を受け取ることができます。
このように、前年入社の社員と今年度入社の社員の間で逆転が生じるのは不公平だと考えました。そのため、前年に半年働いた社員でも、今年度入社の社員と同じように同手当てが支給されるように、適切な対策を実施しました。
それ以前入社の社員は処遇の逆転は発生しないので特に不満の声は出ていません。
梶原様
この点については、人事部内でも何度も議論しましたし、役員への説明時にも同様の質問が出ました。
しかし、実際に試してみた結果、問題は無く、上司からは歓迎の声が上がっています。当社の年度は4月からの1年間で、3月に人事考課を行いその結果は6月のボーナスに反映される仕組みです。
例えば、2月に入社した場合、3月上旬には評価を付ける必要があります。
確かに、1ヶ月という短い期間で評価を付けるのは難しいと感じるかもしれませんが、よくも悪しくもない、わからないのであれば評価は5段階の「3」をつけるのは一つの方法だと思っています。
一方で、即戦力を期待される社員が入社した場合、たとえ1ヶ月でもその努力を評価するべきだと考えています。例えば、12月に入社して3月に評価を付ける場合でも、ある程度その社員の仕事ぶりは把握できるので、良い評価を付けることができます。
これは、社員のやる気を引き出し、モチベーションを高めるために重要だと考えています。
梶原様
給与規定の見直しについては、特に40代でキャリア採用された社員に焦点を当てました。
まず、55歳で給与が下がることに対する社員の納得感が不足していると感じました。
よく考えると、当社は新卒ではなく40代の社員をキャリア採用しており、55歳で役職定年に到達するのが早いため、これに対応する制度をしっかり整えなければならないと考えました。
また、40代・50代で入社し、55歳で課長に昇進したのに、1年後には役職定年や給与ダウンを迎えるのは不自然だと思いました。したがって、60歳までは役職を維持できるようにし、昇進も可能な制度を導入しました。
その結果、給与が上がらないばかりか下がるという状況はおかしいという結論に達し、給与規定の見直しに踏み切ることになりました。
梶原様
社内に関しては大きな課題はなかったです。
社員にとっては非常に喜ばしい話であり、人事ヒアリング等を通じて社員からの強いニーズを受けて、上司や役員もその変更の必要性を理解しています。
しかし、問題点としてはグループ内のすべての会社で55歳を過ぎると役職定年や給与ダウンが適用されている中で、当社だけがそれを変更することが適切かどうかという疑問があります。
また、55歳以降の給与が上がることによって人件費が増加し、その分シェアードサービス受託費を上げざるを得なくなります。この点について、取引先にどう理解してもらうかが課題となりました。
梶原様
取引先に対して説得を行った際、重要だったのは「シェアードサービス」についての誤解を解くことでした。
多くの企業はシェアードサービスを安価に提供できると考えがちですが、実際には単に安くすることが目的ではありません。
むしろ、シェアードサービスでは受託業務のプロとして業務品質を高め、効率的に運営することが重要です。
プロフェッショナル意識を持って業務を進め、VBAやRPAなどの開発を行なうことで10人で行っていた仕事を8人で効率的にこなすことができるかもしれません。
そういった効率化が実現すれば、人数が減った分で一人当たりの人件費を高くしてもいいのではないかという考え方を取引先に伝えました。
梶原様
社員からはもちろん喜ばれましたが、特に採用活動をお願いしている人材派遣会社の方々からも好評を得ました。年収を引き上げたことにより、より多くの人材を紹介しやすくなり、採用活動の成果に結びついたと派遣会社の方々にも喜ばれました。
人材派遣会社は当社にとって非常に重要なパートナーであり、私たちはハローワークなどの公共の求人ではなく、きちんとフィーをお支払いし、良い人財を集めようとしています。そのため、パートナー企業が喜んでくれることは、当社にとっても業務が円滑に進み、非常にありがたいことです。
梶原様
偉そうなことを言うつもりは全くありませんが、これまでの自分たちの運営を振り返ると、もしやあぐらをかいて「これでいいんだ」と思い込んでいたのかもと、とても恥ずかしく感じます。
課題には気づいていたものの、それを変えようとしなかったのは、見ていないふりやできない理由を探していたからだと思います。
しかし、社長が口癖のように言っている「お前がやりたいことをやるのであれば絶対に1人にはさせない」と言ってくれたことが精神的な支えとなり行動に移せるようになりました。
周りのサポートを受けて、みんなでアイデアを考え、前に進んでいくことができました。一言で言うと【やればできる】ということを伝えたいです。
どんなに困難に感じても、行動することが大切だと思います。
取材者のレビュー
今回、取材を通じて、人事担当の梶原様と代表の能城様の人柄の良さに強く印象を受けました。お二人が従業員を本当に大切にしている姿がとても伝わってきました。
特に、代表の能城様が「やりたいと思ったことに対して、1人にさせない」と従業員の方によくおっしゃっていることをお伺いし、凄く素敵な言葉だなと思いました。この言葉は、従業員にとって大きな励ましとなり、人事担当の梶原様と同じように勇気づけられる方が多いのではないかと感じました。勇気づけられ、従業員同士でも、会社を良くするために試行錯誤しながら様々な挑戦ができる環境が整っていると感じました。
また、改めて思うだけではなく行動することが大切だと気付かせていただきました。
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