【インタビューを受けた人】
取材者 高田悠以様
【インタビュアー】
ホワイト財団 岩元翔
株式会社エスエムアイ 代表取締役 高田悠以様
エスエムアイのポイント
・モノづくりを通じてみんなが豊かに暮らせる社会づくりに貢献できる会社を目指す
・多様な個性、多様な働き方を尊重する会社づくり
・従業員の意見を就業規則に反映する柔軟性
エスエムアイは主に医療機器・産業機器・鉄道機器等に使われるスイッチング電源・ACアダプター等の電子部品を取り扱っている商社です。
メインの仕入れ先は海外メーカーであり、輸入した部品を国内製造業のメーカーへ納入しています。
近年はお客様からカスタム品の要望が増えている背景もあり、開発や製造の段階から関与するプロジェクトも増加しています。
アジアはもちろん、ヨーロッパにもネットワークを広げる仕入れ力と技術的な知見も備える強みを活かし、将来的にはファブレスメーカーの機能を併せ持つ商社になることを目指しています。
—なぜ、ホワイト企業を目指そうと思ったのですか?
私がホワイト企業を目指したのは妻の出産がきっかけです。
妻の産婦人科に付き添っていた私の目に留まったのは、診察室にあった「ドップラー」と呼ばれる検査機器でした。これは赤ちゃんの心拍音を聞く装置なのですが、そのクリニックにあったのが取引先の製品だったのです。
当社では『お客様のお客様に満足いただく』という経営理念を掲げています。
まさにお客様のお客様に自分がなったことで、より仕事の意義を感じることができました。
同時により良い製品を提供するには、出発点となる従業員の労働環境が大切だと気づきました。
この出来事をきっかけに、「モノづくりを通じてみんなが豊かに暮らせる社会づくりに貢献できる会社」を目指すには、まずホワイト企業を目指す必要があるという考えに至ったのです。
—ホワイト企業といえば、仕事もプライベートも充実している社員が多いですが、その点はどのようなお考えをお持ちですか?
娘が生まれてからプライベートを充実させた働き方を、より意識するようになりました。
娘と過ごす時間を増やしたいけど仕事の質も落としたくない、そのためには何をすべきかと考えたとき、効率良く働く仕組みが必要だと思いました。そこでまず取り組んだのが私の業務を仕分けすることです。自動化できる業務は自動化し、自分以外でもできる業務は他の従業員に分担しました。
その結果、生活のウェイトを仕事に置いていた従来の働き方を変えることに成功し、自宅で家族と過ごす時間を増やすことができるようになりました。
—社長自身の趣味などがあれば教えてください。
趣味は釣りです。
釣りが好きになったのは、東京で暮らし始めたことがきっかけです。当時、東京に友人がいなかったため、一人でもできる趣味をつくろうと考え、「釣りでもしてみるか」と軽い気持ちでアジ釣りをして以降、一向に熱が冷めません(笑)。
今では週末になると、船で東京湾に出てアジや太刀魚、サワラ等を狙って釣りに出かけています。
釣り仲間もできて、最近はバス釣りや船舶免許の取得にもチャレンジしています。
また、その他にもサッカー観戦や子供との時間など、プライベートの時間を大切にしています。
—「効率よく働く仕組み」について、社内ではどのような取り組みをされましたか?
効率的な働き方を組織に反映させるべく、属人的な業務を減らすためにマニュアルを作成したり、生産効率を上げるためにITツールを積極的に導入をしました。
仮にいつ社員の誰かがライフイベント等で離脱したとしても、周りがフォローできる組織づくりを目指しました。
—エスエムアイでは、女性活躍推進に積極的に取り組まれていますが、きっかけを教えてください。
きっかけは2022年4月から不妊治療が保険適用となった事でした。
実は、妻と私も数年間不妊治療を受けた経験があります。不妊治療はタイミングが非常に重要で、時には連日通院しなければならないこともありました。午前中の診療は込み合うので、通院の為に出勤時間を調整したり、有給を取得する等、治療と仕事との両立に非常に苦労しました。
2022年4月から不妊治療が保険適用となるニュースを見て、「これは益々クリニックが込み合い、タイミングよく通院する事が難しくなるな。」と感じました。
そこで自分の経験をもとに、フルフレックス制を導入しました。
それまでコアタイム(10時~14時)有りのフレックス制を導入していたのですが、午前中に通院するには適していないためコアタイムを撤廃しました。また中抜けもできるようにしたり、時間単位の有給休暇の取得を可能にするなど、就業規則を見直しました。
「こういう就業規則だったら助かるな」という考えをベースに、今後妊活に取り組みたい社員が出たときに、できるだけ自分のタイミングで通院できる環境を整えました。
—具体的な目標はありますか?
男性が育児に積極的に参加でき、女性がライフイベントによりキャリアを諦めなくてもよい会社にしたいです。
エスエムアイには、非常に優秀な女性社員が多いです。
出産、育児などライフイベントを経て、再び働き始めた方がいます。どなたも貴重な戦力として活躍してくれています。
彼女たちの働く姿を見て、「こういう人たちが社会復帰先の候補に当社を選んでくれたら、会社にとって大きなプラスになる」と感じたことも女性活躍を積極的に推し進めている理由です。
優秀な方が活躍の場を諦めてしまわないよう、復帰しやすい社内環境に取り組んでいきたいです。
—女性活躍だけでなく、ダイバーシティ&インクルージョン全体にも取り組んでおられますが、そのきっかけは?
(※ダイバーシティ&インクルージョン(以下D&I)とは性別、年齢、障がい、国籍などの外面の属性や、ライフスタイル、職歴、価値観などの内面の属性にかかわらず、それぞれの個を尊重し、認め合い、良いところを活かすこと)
障がいのある方や、精神疾患で仕事を辞めてしまった方が社会復帰を目指す姿にポテンシャルを感じたことがきっかけです。
当社はプラスチック成形部品の外観検査を障がいのある方や、精神疾患で仕事を辞めて再び社会復帰を目指している方の就労を支援する施設に委託しています。
非常に細かい検品作業にも集中して取り組んでくださり、つい見落としてしまいそうな細かいキズ等もよく発見し報告してくれます。お客様の手に渡る前に問題のある製品を検出できるため、品質向上に大きく貢献して頂いています。
また、その施設の職員の方から「うちの施設ではエスエムアイさんの仕事をすることがステータスになっているんです」と言っていだき、大変嬉しい気持ちになりました。
—D&Iついて取り組まれて、良かった点を教えてください。
施設の職員の方と、もっとパートナーシップを発揮できないかという話に発展し、1名をトライアル雇用で迎え入れました。
その方がエスエムアイで働きだしてからというもの、高いパフォーマンスはもちろん、社内の雰囲気がより一層明るくなるなど良い相乗効果がたくさんありました。現在も障がい者の就労移行で、私たちがお手伝いできることを模索しています。
—ホワイト企業であることの魅力を教えてください。
ホワイト企業認定を取得したことにより、大きく3つのメリットを感じています。
1つ目は取引先から企業としての信頼を得られたことです。
取引先は大手企業も多く、環境整備や人権尊重、労働環境の改善に取り組もうという意識が高まっています。
一度サプライヤーのガバナンスをチェックする担当者の方が視察に来られたことがありました。
その際、ホワイト企業としての取り組みをお伝えしたところ非常に歓迎していただき、より一層当社への信頼が高まったように感じています。
2つ目は優秀な人材の採用ならびに確保ができるようになったことです。
子育てがひと段落した方や、結婚・出産後に「職場復帰したい」という考えを持っている方を採用ターゲットとしています。
なぜならそういった方々は優秀な人材が多いと思っているからです。たとえば小学校低学年のお子さんを持つ方。夕食の準備をするには夕方までに帰宅したいですよね。そういう働く時間に制約がある方こそ、限られた時間内で成果をあげられると考えていますし、現に当社の仕事と子育てを両立している従業員の生産性は非常に高いです。
またホワイト企業を目指したことで社員の定着率も向上しました。
3つ目は従業員満足度の向上です。
新型コロナウィルスが流行した当初、妊娠をしている従業員から「通勤電車に乗るのが怖い」という相談を受けました。
その話を受けてすぐにテレワークを導入しました。
それからほどなくして無事に出産し、現在は在宅勤務をしながらカムバックしてくれています。女性活躍の項目であげたフレックスタイムもそうですが、私は従業員の声に耳を傾けることを大切にしています。
そして可能な限り要望を実現できるように適宜就業規則を見直しています。こうした動きは従業員から高い評価を頂いており、従業員満足度を向上できていると考えています。
—今後の会社の長期的な目標を教えてください。
私が入社したとき、従業員は数名程度しかいませんでした。
それがどんどん仲間が増え、従業員が結婚し、家族が増えている現状がとても幸せです。今後も引き続き公私ともに充実できる会社づくりに注力し、事業拡大を図るとともに、日本のモノづくりを支えみんなが豊かに暮らせる社会づくりに貢献していきたいです。
取材者のレビュー
高田社長に取材をさせていただいた印象は、率先垂範を体現されている方ということです。働き方を見直すにあたり、まず自分が行動に移す。言うは易く行うは難しという言葉がありますが、できることを証明してから全社に浸透させていくのは、経営者としてあるべき姿だと思いました。一方で率先垂範は周りがついてこなければ、ワンマンと捉えられることもあります。そのフォローも高田社長は入念に行っており、風通しの良い環境はもちろん、従業員の意見を吸い上げ、制度や就業規則に反映しています。
同社では毎年従業員にオリジナル手帳を配布しているそうです。手帳には就業規則をはじめ、女性の活躍促進宣言や健康経営宣言など新たな取り組み、会社の考えやミッションが記されているのですが、常にアップデートを図られているため、おそらく来年の手帳には従業員の声をもとに生まれたまた新たな制度が追加されていると思います。推進力のある高田社長と、同じベクトルを向いて働く従業員の方々。賛同者が増えれば企業としてますます成長することは間違いないと感じました。
日本次世代企業普及機構 代表理事 岩元 翔
東証1部乗上場企業の求人広告会社にて新卒・中途採用のコンサルティング業務を学び、その後ITベンチャー企業にて自社採用業務、教育業務に従事。 2020年には一般財団法人日本次世代企業普及機構の代表理事に就任。これまでの経験、実績を活かし、経営者や従業員にとって道しるべとなる「ホワイト企業指標」を作り上げた。