【インタビューを受けた人】
医療法人社団元亨会 てらお耳鼻咽喉科 寺尾 元 様
NEXPERT社会保険労務士事務所 田名網 啓陽 様
【インタビュアー】
ホワイト財団 金崎綾香
理事長 寺尾 元 様
顧問社労士 田名網 啓陽 様
てらお耳鼻咽喉科のポイント
・人材育成に取り組み、未経験者からプロフェッショナルを育てる企業
・従業員の声を熱心に傾聴し、働きがい満足度に反映させている
・治療技術やサービスクオリティの高い医療施設を目指している
寺尾理事長:てらお耳鼻咽喉科は、大田区蒲田のあやめ橋近くに拠点を構える耳鼻咽喉科クリニックです。
「当院に関わるすべての人の暮らしを豊かにする」という企業理念のもと、安全で良質な医療を提供するプロフェッショナル集団を目指しています。
—医療業界は経験者の採用募集が多いイメージですが、未経験者の入職も多いのですか?
てらお耳鼻咽喉科は、スキルの有無よりも企業理念への共感と人柄を重視して採用を行っており、実際に当院で働くスタッフのほとんどが未経験者です。
そのため、未経験者でもあっても、しっかりと現場で活躍できるような人材育成制度を導入しています。知識や技術を身に付けながら、のびのびと働くことができる制度を整えていますので、“未経験”だからと臆することなくチャレンジしていただけると嬉しいですね。
—人材育成に注力されているとのことですが、取り組み内容について教えてください。
寺尾理事長:「事業は人なり」 という松下幸之助の言葉に共感し、社内環境づくりに反映しています。
「企業の価値は、そこで働く人のレベルで決まる。」と言っても過言ではありません。
企業が成長するためには「人づくり」が最重要課題であると考え、人材育成において3つの取り組みを行っています。
1つ目は、「外部研修への参加」です。
看護師やスタッフといった医療従事者が対象の「医経統合実践塾」への参加を推進しており、新人研修の一環として、新しく入職したスタッフと参加希望者を連れて年に4回ほど研修を受けています。
外部研修への参加目的は、『医療人としての心構え』を身につけることです。
患者さんへの対応をはじめ、当院で働くうえで大切にしてほしい姿勢を学んでいただきたいと考えています。
2つ目は、「ミーティング研修」です。
ミーティング研修では、私が過去に参加したセミナーの内容や経験の中で学んだことを共有する場として月に1度開催しています。
また、業務の効率化や患者さんへの対応などの改善するべき点についてもミーティングの中で意見を出し合い、みんなでブラッシュアップに努めています。
他にも、チームビルディングや相互理解、女性の働き方などトピックスは様々で、講義形式ではなくディスカッションを行うことで能動的に学習できるよう工夫しています。
3つ目は、「オリジナルの教育システム」です。
この研修は、新しく入職したスタッフを先輩スタッフが3ヵ月間フォローする制度です。
期間中は、業務の中での自身の成長点や困り事を日誌に記し、メンターである先輩スタッフへ提出してもらっています。先輩スタッフは、日誌の内容を確認してコメントやアドバイスを返信することで日々の業務と合わせて新人スタッフのフォローを行っています。
そして、1~2週間に1度、面談を実施して日誌のフィードバックを行う時間を設けています。
業務スキルの向上と理念の浸透の観点から、これらの育成制度を整えています。
—働きがいについても注力しているとのことですが、取り組み内容について教えてください。
寺尾理事長:てらお耳鼻咽喉科では「医療は元気や幸せのお裾分け」と考え、「医療を施すためにはまず自分が幸せであるべき」だと考えています。
私の思う幸せとは、仕事の中で働きがい・やりがいを感じ「なりたい自分になれること」と定義しています。現在、企業理念の浸透とともに、個々人の目的と目標を設定し、評価する制度の取り決めを行っています。
人の頑張りには個人差があり、その個人差を正当に評価することがやりがいや成長につながります。
一人ひとりの現状と目標をしっかり見据え、頑張りを適切に評価する。そして、給与やキャリアアップできちんと還元できる制度を設けることが私の役割だと思っています。
現在、スタッフの“幸せ”につながる制度を、顧問社労士の田名網先生と選定中です。
—福利厚生制度について教えてください。
田名網様:現在、てらお耳鼻咽喉科の顧問社労士として院の人事や労務に携わっています。
院で働いているスタッフさんは理事長先生以外、全員が女性のため「女性にとって働きやすい環境づくり」についてサポートしております。その中でも、子育てをしながら働くスタッフさんが多く、仕事と子育てを上手に両立できる福利厚生制度を導入しています。
例えば、土曜日の診療は正社員スタッフのみで対応しているのですが、子育てに忙しい中でも出勤してくれるスタッフのために、土曜日の託児所料金は会社で全額支給しています。
また、託児所などの関係で出勤日が減ってしまうスタッフさんには一時的にアルバイトへの契約変更を推奨し、子育てにゆとりができた段階で再度正社員に戻ることも可能です。
ライフイベントによって女性がキャリアを諦めてしまうことのないよう、産休育休や時短勤務、雇用形態の柔軟な変更体制など働きやすい制度の導入を追求しています。
一人ひとりの働き方に合わせて、柔軟かつスピーディーに対応ができるような環境づくりをこれからも考えていきます。
—てらお耳鼻咽喉科を開院するに至った経緯を教えてください。
寺尾理事長:大学卒業後、基幹病院で21年にわたって勤務していたのですが、その中で不満に感じることがありました。
それは、患者さんを平等に診療できない基幹病院の性質です。
どうしても重篤な患者さんが優先となり、軽症でも症状のある患者さんが後回しとなってしまうため、待ち時間に耐えかねて帰ってしまう方も少なくありませんでした。
「軽症でも症状がある以上、不安を抱えて来院しているはずなのに」と歯がゆさを感じ、軽症の患者さんにも高度な医療を提供したいと考え、個人クリニックの開業を決心しました。
私は、これまで培ったスキルには少なからず自信があります。
自己判断でやみくもに薬を飲んでも病気は治りません。最低限必要な診察や検査を施行し正しい診断と適切な薬を内服することで治癒も早くお財布にも優しいのです。
しかし、当院で対応できない病気や専門分野外の治療を必要とする場合もあります。
その際は、迷わず他施設をご紹介しています。それは、私が医療に従事する中で出会った数多くの有識なドクターです。彼らには素晴らしい実力があると信頼しているからこそ、誇れるサポーターとして当院の患者さんをおまかせすることができるのです。
患者さんにとって最良の診療を提供できるように、スタッフ一同日々尽力しています。
—ホワイト企業認定を取得した理由を教えてください。
寺尾理事長:企業と求職者の関係の変化を実感したことがきっかけです。
当院が開業して9年目を迎えたころ、開院当時と比較して採用活動に陰りが見えてきました。
広告を出すだけの時代は終わり、求職者に企業が選ばれている時代が到来していると感じました。
今後も採用活動を続ける中で求める人物像にマッチした求職者に選ばれるためには、働きがいを見出してもらえるような魅力ある組織になることが大事だと考えます。
この度ホワイト企業認定の取得に伴い、院内の制度を改めて振り返ることで長所と改善点を把握することができました。
取得に満足するのではなく、更なる魅力を謳える組織となるように制度や取り組みを研鑽していきたいです。
—環境整備にあたって苦労したことを教えてください。
寺尾理事長:職場改善に伴い、苦労したことは残業時間を減らすことです。
医療現場という性質上、診療時間の延長に合わせて残業時間も増加してしまいます。
残業を減らすためには、患者さんの一人当たりの診療時間を削減しなければいけません。
しかし、患者さんをおろそかにするなどもってのほかです。そこで、システムや権限移譲を行うことで業務の効率化を図りました。
診療行為ができる医師は私だけですが、診療以外の仕事であれば私以外でも対応が可能です。診療以外の仕事をほかのスタッフに分配し、医師として診療に集中できる体制に変更しました。
また、院内にIT技術を導入することで、診療の中で一番時間を必要とする問診時間を削減しました。
患者さんの病歴や病状、発症した時期などをお伺いするのですが、慢性的な症状になると時間をかけて問診をする必要があります。
そこで、LINEの予約システムを導入し事前に病状などをご入力いただくことで、今まで1人あたりの診察時間に平均3分かけていたところを2分30秒に抑えることができました。
たかだか30秒ですが、その30秒が積み重なると大幅な時間カットになります。
業務の効率化に差し当たり、スタッフと定期的にミーティングを開催し、各自が受け持つ作業で削減できる無駄はないかを精査しています。
効率化を図ることで一人ひとりに余裕がうまれ、患者さんにより質の良い医療を提供できると考えています。
—経営する上で苦労したことはありましたか。
寺尾理事長:自分の考え方を是正することです。
開業前に著名な耳鼻院での下積みを経験していたため、集客の知識やノウハウが身についていました。その経験を活かして “てらお耳鼻咽喉科だから”できるサービスや治療を導入して開業したため、収益はロケットスタートを切ることができました。
その後も定期的に外部セミナーに参加し、マーケティング学などを身に付けては経営活動に反映していました。
ただ、身についたものは経営していく上での方法だけで、経営者としての在り方や心構えは全くありませんでした。院の経営だけに注目しすぎて、一緒に働くスタッフに目を配ることができていませんでした。
そんな折、開業7年目にスタッフの1/3が一気に退職することがありました。
スタッフにかかっていた多大な負担が原因でした。
残業が長引こうと、トップダウンで独裁を敷いていようと、それが当たり前だと認識し、スタッフの苦痛に気づけなかったのです。
その出来事でようやく自分が「嫌な経営者」だったことを知りました。
そこで、まずは自分の在り方を変えようと努力しました。
自己啓発のセミナーに参加したり、マネジメントの本を読んだりすることで、経営者としてスタッフに見せる姿勢を意識するようになりました。
経営者として考え方を変えることで気づいたことがあります。
それは、「相手を変えることはできない」ということです。
相手のミスを叱責しても、それでは委縮させてしまうだけで根本的な意識の変化にはつながりません。
自分を変えることで相手が持つ印象を変化させ、相手の意識を動かすしかないと気づきました。
今は「主体変容」を念頭に置き人材を中心とした経営に力を入れています。
—てらお耳鼻咽喉科とはどんな組織ですか。
田名網様:「人づくり」をしている医療法人です。
てらお耳鼻咽喉科様に初めて訪れた時のことは、今でも忘れられません。
スタッフ同士のコミュニケーションが非常に活発だったんです。
それぞれが意見を持っており、それを共有し合うことでワンチームとして院全体がまとまっているように感じました。
また、定期的にミーティング研修にも参加させていただくのですが、非常に熱のこもったディスカッションが行われています。
理事長が題材を選定していますが、独壇場になるわけではありません。
スタッフの意見や発表はもちろん、私や税理士の方など、第三者の専門家の知見も取り入れたうえで研修を実施されています。
「みんなの意見を取り入れ、より良い医院をつくる」といった理事長先生の強い想いが、意見を発信しやすい環境になり、ワンチームとして意見交換を行う風土が醸成されているのだと考えています。
—てらお耳鼻咽喉科の魅力について教えてください。
寺尾理事長:「あたりまえのことがあたりまえにできること」が当院の魅力です。
相手の目を見て話し、挨拶をして、困っている人には手を差し伸べ、誰かに喜ばしいことがあれば一緒に喜ぶ。
当たり前のことですが、自分も相手も幸せになる心配りだと考えています。
このような風土を浸透させるために、スタッフ間の良好な関係性を構築する場を多数設けています。
—コミュケーションの機会はどのように設けていますか?
定期的な食事会を開いています。
当院では忘新年会を開催しておらず、年3回ほどに分けてスタッフの中から3~4名を連れて、少し高級なレストランで食事会を開いています。
忘新年会のような全員参加の食事会だと、どうしても仲のいいスタッフ同士で固まってしまい全体の交流になりません。そのため、シフトなどの関係であまり接点のないスタッフを私が人選し、食事に誘っています。
おいしい食事を食べながら、少人数で会話を楽しみ、相手の知らなかった面を知る機会として役立っています。
また、普段なかなか行くことができない高級店に招待し、日ごろの感謝の気持ちを伝えています。
今の院があるのは、ここまで当院で働き続けてくれたスタッフのおかげです。感謝とコミュニケーションの場として食事会を開いています。
さらに新しいスッタフが入職した際には、みんなで弁当を囲みながら自己紹介などを行うランチ会や、スタッフの誕生日にはケーキを食べて集合写真を撮る誕生日パーティーなどを開催し、院内での交流も積極的に促進しています。
—業務の中でやりがいを感じることを教えてください。
寺尾理事長:スタッフの成長を見たときにやりがいを感じます。
患者さんに手を差し伸べる姿や円滑な会話のキャッチボールなど、些細な瞬間かもしれませんが経営理念に共感してくれていることを実感でき、やりがいにつながっています。
また、少し前のミーティング研修で、本を紹介したことがありました。
研修後、一人のスタッフが「本を貸してほしい」と言ってきたんです。
それだけでもうれしい出来事だったのですが、後日、本の返却に来た際、何枚もの読書感想文を書いてきてくれました。マーケティングについて書かれているもので、読みやすい内容とは言い切れないものでしたが、5回も読み返して感想文を書いてくれたそうです。
私の考えを知ろうとし、なおかつ共感してくれたことがひしひし伝わってくる文章で、非常に感動したことを覚えています。
入職時からハイレベルでなくともかまいません。
私が考える理想の院に共感し、行動に起こしてくれることが私の活力です!
—てらお耳鼻咽喉科の今後の長期目標を教えてください。
寺尾理事長:1院に医師1名でレベルの高いサービスを提供できる施設になることが目標です。
私は、院数を増やして規模を拡大させるのではなく、自分の目が届く範囲でスタッフとともに組織レベルを向上させたいと考えています。
てらお耳鼻咽喉科には未経験からプロフェッショナルになれる人材育成制度を整えています。
今いるスタッフはもちろん、これから入職してくれる方もともに成長しながら、やりがいを持ち、幸せを感じながら働くことができる環境づくりに取り組み続けていきたいですね。
—てらお耳鼻咽喉科で活躍できるのは、どんな方でしょうか。
寺尾理事長:「素直、プラス発想、勉強好きな人」です。
この言葉は、船井総研グループの創設者である舩井幸雄氏が遺した成功の3条件であり、当院でもこのような素質を持った方に入職していただきたいと考えています。
素直とは、相手の話をきちんと「聴く」姿勢を指しています。
聞く前から頭ごなしに否定するのではなく、一度聞き入れたうえで判断をする人であってほしいです。
プラス発想とは、新しいことに対してポジティブに取り組もうとすることです。
新しいことに挑戦するとき、「失敗を回避する方法」を探すのではなく、「どうやって成功させようか」を考えるプラス発想を持つことで、自然と成功への道が拓けます。
勉強好きな人についてですが、この要素は成長意欲のある人に見られる特性だと考えています。
現状に満足するのではなく、少しでも時間があれば勉強をして実力を向上させようとすることが、成長するうえで大事です。
当院の企業理念を実行するためには、以上の3つの要素が求められます。
安全で良質な医療ですべての人の暮らしを豊かにするために、ともに成長しあえる仲間を待っています。
取材者のレビュー
手厚いおもてなしとともに高度な医療サービスを提供するてらお耳鼻咽喉科。提供レベルを決して妥協しない寺尾理事長の想いにスタッフが共鳴し、一丸となり医院を研磨されていました。未経験から医療のプロフェッショナルを育成する体制の背景には、スタッフ一人ひとりの働きがいに起因する想いがありました。そしてその想いは、働きやすい環境づくりにも反映されています。
クリニックが掲げる企業理念には、勉強熱心な寺尾理事長が今まで積み上げてきた知見だけでなく、スタッフや患者様、その他関わる全ての人を幸せにする熱意を窺い知ることができました。
日本次世代企業普及機構 金崎綾香
小売業界でバイヤーとして、商品買付けや企画などの店舗管理業務に従事しつつ、販売メーカーの営業として法人営業にも携わってきました。2022年より株式会社ソビアに入社し、これまでの経験を活かし、ホワイト企業認定を取得された企業様の魅力をホワイトキャリアでたくさんの方に発信していきます。