【インタビューを受けた人】
セムコ株式会社 宗田 謙一朗様
【インタビュアー】
ホワイト財団
代表取締役社長 宗田 謙一朗様
高校を卒業するまで神戸で生まれ育ち、その時間の大半は野球に費やしてきました。特に高校時代は高校球児として甲子園を目指し、夢と白球を追いかけていました。私の代では遠い目標として終わりましたが、2016年に母校(長田高校)が甲子園への切符を手にしてくれました。実はその時に監督をしていたのが、高校時代の私の二つ上の先輩だったこともあり胸が熱くなりましたね。
高校卒業後は長く住んだ関西から出てみたいと思い、長野県の信州大学に入学しました。大学時代も引き続き野球部に所属しバットを振っていましたが、ふと海外留学をして見分を広めたいと思い立ち野球部を退部しました。そこからは資金調達のためにアルバイトに勤しんでいましたが、親の静止が途中で入り断念することになり、再び野球部に戻ったりと、あっという間に大学生活の幕が降りていました。
当時は教職を目指して教育学部にいましたので、もう一度学生をできるなら経済学や経営学を一から学んでみたいですね。組織開発やマーケティングを学ぶと、これまでのセムコもまた違った歩みができたのかなと思います。
私の在学時代に先代が体調を崩したこともあり、継承を視野に卒業後はセムコに入社しました。先に申しましたように教育学部でしたので、まったく別ジャンルの世界に飛び込むことに少なからず不安はありました。ただ、その不安以上に新しいことを学べる、知れるという未知の世界へ胸を高鳴らせていた記憶があります。
今と比べると年齢層が高い会社でしたね。20代は私だけで、残りは40~50代が大半でした。当時はPCの黎明期と言いますか、Windows95が出始めだったこともあり、職場はまだまだペーパーワークが多い環境にありました。そのため、セムコも時代へ対応すべくWindowsをはじめ、新たなシステムを導入したり、導入したシステムに蓄積されたデータをもとにPDCAを回したりと、私の入社を皮切りに新しい取り組みを順次進めていきました。しかし、後ろを振り返ると新しいことに順応できる若い世代を除き、当時のセムコを牽引していたベテラン層が置いてけぼりの状態になってしまい、社内浸透するまで相応の時間が掛かりました。
入社当時、セムコのクライアントの大半は造船業界でした。その頃の造船業界はいかに商品を安く仕入れるかといったコストの話で終始することが多く、どうすれば業界が盛り上がるか、良い商品できるかといった建設的な話になることがそう多くありませんでした。そのような環境に嫌気がさし、私のモチベーションが下がっていった時期がありました。そんな中、ヨーロッパで開催された世界規模の展示会に参加する機会をいただきました。青天の霹靂とはこういうことを表すのではないかと思うほど、そこで大きな衝撃を受けました。展示会に参加していたヨーロッパの商品はどれも付加価値の高い商品ばかりで今までみたことない商品がたくさん並んでいました。
不思議なもので、商品を通して会社の顔が見えると言ったらいいのか、商品の中に企業文化がそのまま反映されていることが衝撃でした。もちろん低コストでの製造は大切ですが、そこだけに執着するのではなく、各社の考え方やシステムが商品に凝縮し、詰め込まれていました。展示会を通じて知り合った現地の方に話を行くと、彼らはオリジナルのものや、今まだにないものをつくることに誇りを持ち、そこに心血をそそいでいることを知りました。セムコに、業界に足りないものはコレだと思い、私の中でスイッチが入った瞬間でした。これを機に、今までの景色が一変しました。
2005年にセムコの代表取締役社長に就任した際、自分の会社もそうしたモノづくりを行う企業でありたいと願い、商品にセムコらしさを吹き込むべく、社内制度にメスを入れ、働きやすい環境づくりや、企業ブランディングを推し進めていきました。
ここでは語りつくせないほど、今日までに本当にたくさんの紆余曲折がありました。特に社内のチーム作りには苦戦し、社員と上手くいかなかったり、自分だけが独立したりと、数字を追いかけるあまり失敗したことがたくさんありました。しかし、そうした経験をしたからこそ、代表として社員を信頼して任せ、社員からも会社を信頼してもらうことで、数字が変わっていくことに身をもって経験させてもらいました。そのため、私はセムコの代表として社員が働きやすい環境を整え、社員一人ひとりが活躍できる場をどんどん作っていきたいと考えています。
タンクの中にどれくらいの液体が入っているか計測するタンク液面計測機器のメーカーになります。身近なもので言うと、車に搭載されているガソリンメーターをイメージしてもらえるとわかりやすいかと思います。そうしたメーターを船舶業界や向上、電力関係のタンクに使用されています。ありがたいことに業界トップシェアをいただいてたり、日本郵船様と共同開発を実施していたりと、有名企業様とも多数お取引いただいています。また国内に留まらず、韓国、台湾やシンガポールといった国外からも発注いただいています。
船舶業界では知らない人はいないと言っても過言ではないくらい高いシェアを誇っています。中にはセムコの社名よりも、実際の商品を見ていただいた方がピンとくる方も多いかもしれませんね。
また、当社の強みの一つはお客様と一緒になって商品開発をしている点にあります。ユーザーニーズを聴いて形にしていくというコンサルティング営業をしているのですが、これがお客様から好評いただいています。このコンサルティング営業を通じ、結果としてユーザー側の労働環境の改善にもつながっています。
(セムコの液面計測機器)
大きく下記の6つの業種に分かれています。
職種一覧
営業職チーム | ルート先への提案営業。 |
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業務部チーム | 営業のサポート。仕入れ発注、受注登録。 |
生産部チーム | 製造ラインの計画や製造業務、商品改良。 |
技術部チーム | クライアントのニーズをカタチにする。 |
品質保証チーム | 生じた製品トラブルに対して随時対応。 |
総務経理チーム | 経理を含む、その他の管理業務全般。 |
将来のリーダー候補を育成していきたいと思っています。トップダウンで粛々と業務に勤しむのでなく、自分で考え課題解決型で取り組めたり、個で解決が難しい際に周囲を巻き込みながら進めることができることなど、主体的に物事と向き合える人を求めています。セムコの会議では役職・年齢に関わらず、能力があると判断した社員に参加してもらっています。若い層では20代後半の社員が参加しています。現在営業部を取り仕切っている社員も30代前半を、若い世代が活躍しています。
係長、課長代理、課長、部長代理、部長、取締役となっています。成長支援制度というものを活用しており、その中にステップアップ基準や役職に応じた職責、ミッションを明記しています。評価軸を点数制にして可視化できるようにしており、加点評価を行います。各カテゴリーを5段階評価し、数字に基づき客観的に評価しています。大きく3の職層に分けています。各ステージに応じて下記のような能力を満たしていることが条件となります。
ステップアップ一覧
一般層 | プレイヤー。個人的能力を高めていく。 |
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中堅職層 | プレイングマネージャー。プレイヤーとして活躍しながら担当部門を盛り立てていける。 |
管理職層 | マネージャー。部署全体を取りまとめていける。 |
今後、技術関連と業務関連の採用に注力していく予定ですので、今回は技術関連の職種をご紹介させていただきます。
技術関連は最初の仕事はお客様との図面のやり取りを中心に行っていきます。その中でセムコの商品や業務内容、お客様の特性を把握してもらいます。その後は開発を任せ、各お客様のニーズに合わせた商品設計を行ってもらいます。そして最終的には営業と直接お客様と打ち合わせを行い、0から新たなものを作ってもらうようになります。
大学生は社会人経験がないだけであって、優秀な人材が多いと思っています。中途採用が悪いというわけではないのですが、前社で経験がないため、入社して会社に馴染むスピードが早く、社内の制度や取り組みを含めてすんなり吸収してくれます。また、未経験が故に固定概念に縛られず、これまでの経験や学びから多様な考え方やアイデアが出てくるケースを何度も見てきました。
柔軟な発想力と高い意欲、主体性が高い人です。一言に言い換えるとリーダーシップのある人ですね。リーダーシップがある人は成長も早く、最終的に管理職を担っていることが多いです。
先ほどの社内会議で触れたように、営業部では30代前半の社員が部署を取り仕切っています。彼は入社当初は技術職でしたが、本人の希望により営業へ配置転換をしました。技術の知識を備えていますので提案の幅も広く、持ち前のリーダーシップも相まって営業チームを任せるにいたりました。任せるにいたった背景には彼の中にある「会社をよくしたい」という熱い想いがあったためです。リーダーになる以前から会社をよくするために社内外問わず奔走していましたが、一部メンバーから協力や理解が得られなかったりと、社歴や役職が弊害となっている事態に陥っていました。そこで会社として想いと能力、それまでの評価など総合的に判断して、リーダーに抜擢することで会社がより良くなっていくという結論になりました。結果としてこの判断が功を奏し、営業部全体の数字も上がってきています。
取り組みは2005年の就任時からスタートしてきました。当時からセムコでは女性が活躍していましたが、その女性をサポートする仕組みがありませんでした。そのため、女性も安心して働くことができる環境づくりに努めてきました。
その中で、単に休みが多い、休みが取りやすい雰囲気よりも、心理的安全性の確保をすることが生産性の上昇につながると気付きました。心理的安全性とは、わかりやすく言うと意見が言いやすかったり、失敗が歓迎される文化であったり、失敗しても皆でカバーする人間関係があったりと、文化として社内に根付いているものを指します。社員からもこうした心理的安全性が保たれた状態が安心して働くことができると生の声として上がってきています。今後も真の意味で働きやすい環境を整備していきたいと思います。
近年は会議の運営方法に注力してきました。コーチングの勉強会を取り入れ、その技術を活用した会議運営を行ってきました。それにより従来の役職や社歴といった力のある人のみが発言する空気を変え、誰もが自分の意思・意見を発信することができるものに進化していきました。これからは社員が活躍できる環境をもっと広げていきたいと考えています。今以上に社員へ仕事を任せていき、新しい事業を作るところから一緒にやっていきたいと思っています。例えば液面計測機器事業だけでなく、社内で実施している研修制度を外部に広げ、社外講師としてセムコの社員が登壇・活躍する場を創出するなど 、社内のリソースを活用して新たな取り組みをしていきたいと考えています。
世の中に貢献することです。日本の中小企業同士で手を取り合い、新しい市場を開拓していきたいと思っています。そのために自分のリソースを使用し、中小企業をどんどん盛り立てていくための手段として考えています。また、会社の代表として「社員が活躍できる環境をつくること」です。
岩元 翔
宗田社長自らセムコさんが考える働きやすさや、就任から今日に至る社内改革の歴史についてお話しいただきました。 セムコさんでは能力に応じたチャンスの場を随所に設けており、会議の在り方も非常に考えられていると感じました。実際に活躍する社員について語る宗田社長のキラキラした目が印象的で、社員の成長を心から喜ばれていることが伝わってきました。