就活で企業を選ぶとき、事業内容や働く環境などポジティブな面に目が向きがちです。しかし近年、リスクマネジメントに真剣に取り組んでいるかどうかが、企業の安定性を測る重要な指標になっています。
ホワイト企業認定の審査でも2020年3月にリスクマネジメントが審査項目に追加されました。「事業の魅力」だけでなく「足元をしっかり固めている企業かどうか」を見極める視点として、リスクマネジメントの種類・4つの手順・情報セキュリティやBCPなどの具体例・就活での見極め方まで、累計3,625社を審査した認定機関の視点で解説します。
キャリアアドバイザーコメント
日本次世代企業普及機構 代表理事 岩元 翔
リスクマネジメントは就活生には難しいテーマに見えますが、「いざというときに社員を守れる会社かどうか」というシンプルな視点で考えるとわかりやすくなります。累計3,625社以上を審査し、650社以上を認定してきた中で見えてきたのは、BCPや情報セキュリティへの取り組みが充実している企業ほど、長期的に安定して成長しているという事実です。経営基盤の強さを示す重要な指標として、企業選びの軸に加えてください。
◆ この記事でわかること
- リスクマネジメントの意味と危機管理(クライシスマネジメント)との違い
- 企業が直面するリスクの2つの種類
- リスクマネジメントの4つの手順(特定→分析→対応→改善)
- 具体的取り組み4選(情報セキュリティ・労働安全衛生・BCP・バックアップ)
- 就活でリスクマネジメントへの取り組みを見極めるポイント
リスクマネジメントとは?危機管理との違い
リスクマネジメントとは、企業経営において損失を生じうるリスクを網羅的に把握し、その影響を事前に回避または事後に最小化する対策を講じる経営管理手法のことです。
混同されがちな「クライシスマネジメント(危機管理)」と比較すると違いがわかりやすくなります。
| 用語 |
意味 |
タイミング |
| リスクマネジメント |
危機発生前にリスクを管理し影響を最小限に抑える手法 |
危機発生前 |
| クライシスマネジメント(危機管理) |
危機が発生した後の対処・復旧のための管理手法 |
危機発生後 |
つまり、リスクマネジメントは「予防」、クライシスマネジメントは「対処」という違いです。両方が揃ってはじめて、真の意味で「強い企業」と言えます。
リスクの2つの種類
◆ リスクの2分類
- ① マイナスのみのリスク:火災・台風・地震などの自然災害や人為的ミス。財産損失・損害賠償リスクなど利益を得る可能性がないリスク
- ② マイナス・プラス両方のリスク:税制改正・景気変動・消費者動向の変化など、政治・経済情勢の変化による経営環境の変化。損失にも機会にもなりうる
マイナス・プラス両方のリスクは、捉え方次第で「ピンチをチャンスに変える」可能性を秘めています。例えばDX推進という変化は、対応できない企業にはマイナスですが、いち早く対応した企業にはプラスになります。
企業が実践するリスクマネジメントの4つの手順
手順① リスクを発見・特定する
組織全体でリスクの重要性を共有し、存在するリスクをリスト化します。各部門から最低1名が参加する形で全社的に洗い出すことが重要です。
手順② リスクを分析・評価する
リストアップしたリスクに「影響度」と「発生頻度」を加えて優先順位をつけます。PIマトリックス(影響度×発生確率)でリスクを視覚化する手法が一般的です。影響力が小さくても発生頻度が高いリスクは軽視しないことが重要です。
手順③ リスクに対応する
優先順位の高いリスクから対策を検討します。対応は2種類に分けられます。
- リスクコントロール:リスクを生む要因を取り除く。マニュアル策定・緊急対応ルールの整備など
- リスクファイナンス:損害保険への加入・他社とのリスク分散など経済的損失を補填する方法
手順④ モニタリング・継続的改善
多くの企業で見落とされがちなステップです。定期的にリスクマネジメントの実施状況を検証し改善し続けることが、形だけでなく機能するリスク管理の鍵です。
企業が取り組むリスクマネジメントの具体例4選
① 情報セキュリティ
情報漏洩・サイバー攻撃のリスクへの備えです。どれほど精緻なセキュリティ対策を設計しても、従業員が理解・遵守していなければ意味がありません。
◆ 情報セキュリティ対策のポイント
- セキュリティポリシーを全従業員に周知・教育する
- ネットワーク機器一覧・情報資産台帳などを整備する
- 退職・異動した従業員のアカウントを即削除する
- 外部専門家の意見を取り入れてセキュリティレベルを維持する
② 労働安全衛生
従業員が安全・健康に働ける環境づくりへの取り組みです。管理責任者を選任し、安全衛生計画を策定・実施・評価するPDCAサイクルを回すことが求められます。ストレスチェックや健康診断後の医師意見聴取も労働安全衛生の重要な取り組みです。
◆ 労働安全衛生の取り組みポイント
- 安全衛生方針を表明し、目標を設定する
- 労働時間の管理・教育を含む安全衛生計画を策定する
- ポスター掲示・表彰制度・セミナーで従業員の意識向上を図る
- ストレスチェック・健康診断・面接指導を着実に実施する
③ BCP(事業継続計画)の策定・更新
BCP(Business Continuity Plan)とは、緊急事態が発生しても事業を継続・早期復旧できるよう事前に準備する計画です。BCPを整備している企業は取引先・社会からの信頼も高まります。地震・パンデミック・サイバー攻撃・サプライチェーン断絶など、現代企業は多様な事業停止リスクに備える必要があります。
④ 重要機密情報のバックアップ
個人情報・顧客データなどの重要情報は、ウイルス感染・自然災害・人為的ミスに備えて複数の場所にバックアップを保管することが求められます。クラウドサーバーの活用も有効です。
リスクマネジメントとハラスメント・エンゲージメントの関係
リスクマネジメントは「災害」「情報漏洩」だけが対象ではありません。ハラスメント問題・メンタル不調・離職といった「人材リスク」もリスクマネジメントの重要なテーマです。エンゲージメントを高め、ハラスメント対策を講じることは、人材リスクの低減につながります。
就活でリスクマネジメントへの取り組みを見極めるポイント
◆ 就活で確認したいチェックポイント
- 情報セキュリティに関する方針や研修制度はあるか
- BCPは策定されており、定期的に更新・訓練されているか
- 労働安全衛生に関する目標・計画はあるか
- ハラスメント相談窓口・エンゲージメント向上施策はあるか
- ホワイト企業認定などの第三者評価を取得しているか
「この企業はいざというときに社員を守れる体制があるか」という視点で見ることが、長く安心して働ける職場を選ぶための重要な視点になります。
まとめ|リスクマネジメントは「強い企業」の指標

◆ この記事のまとめ
- リスクマネジメントとは危機発生前にリスクを管理する経営手法
- クライシスマネジメント(危機管理)は危機発生後の対処手法
- リスクは「マイナスのみ」と「マイナス・プラス両方」の2種類
- 4つの手順:①特定→②分析・評価→③対応→④モニタリング・改善
- 具体的な取り組みは情報セキュリティ・労働安全衛生・BCP・バックアップの4つ
- 人材リスク(エンゲージメント・ハラスメント)もリスクマネジメントの一部
- 就活では「社員を守る体制があるか」という視点で企業を見極めることが重要