2000年以降、欧米企業で定着した「エンゲージメント」の概念は日本にも広がりはじめましたが、終身雇用の文化が色濃い当時の日本では、エンゲージメントの高低にかかわらず1社に勤めあげることが美徳とされてなかなか定着しませんでした。
しかし近年、働き方改革や健康経営、組織力強化といった様々な観点から、企業が成長する力、あるいは発展する力を向上させるために、従業員エンゲージメントを高めようとする動きが、人事領域で非常に活発化しています。
この記事では、
「従業員エンゲージメントとは何か」
「向上させるために企業がどんなことをしているのか」
「向上させるために企業がやるべきこと」を解説していきます。
目次
人事領域における「エンゲージメント」という言葉は、企業やブランド、商品やサービスへの愛着を表す言葉です。
お客様がどれだけ自社製品やサービスに愛着や思い入れを持ってくれているかを測る指標として活用されます。
従業員が現在働いている会社に対して、向かっている方向性に共感し、自発的に貢献したいと思う意欲のことを指します。
従業員のエンゲージメントが高い時、従業員は職場環境や労働条件に満足しているだけでなく、仕事にやりがいを感じ、意欲を持って取り組むことができています。
企業と従業員の間に相互的な信頼関係が発生します。
企業にとって従業員のエンゲージメント向上は、生産性の向上や離職率の低減などメリットが多くあります。
従業員エンゲージメントを正しく理解するために、混同しがちな用語との相違点を明確にしておきましょう。
<従業員満足度(ES)>
従業員エンゲージメントが、企業理念への共感や自発的な貢献を意味するのに対して、従業員満足度は居心地の良さに重きが置かれています。
福利厚生や労働環境などを企業努力によって改善・改良することで、従業員がその取組みを評価し、満足していたらモチベーションが上がりエンゲージメントに繋がります。
しかし、必ずしも企業の業績に結びつくものではないので注意が必要です。
<ロイヤリティ>
ロイヤリティとは「忠誠心」のことで、従業員だけではなく顧客に対しても使用されている用語です。
日本では伝統的に企業が従業員に対して圧倒的な力を持っていたため、ロイヤリティが重視される傾向にありました。
ロイヤリティの高さが企業への貢献につながる場合もありますが、企業と従業員は明確な主従関係になるため、従業員自身の判断力や想像力が育たず、「指示待ち人材になってしまう」といったネガティブな結果を招く可能性もあります。
<コミットメント>
コミットメント(=commitment)には、「委託」や「約束」「責任」といった意味があります。
人事領域におけるコミットメントは、企業が従業員に対して目標や行動などを設定し、従業員がそれに応えている(承認している)状態を指します。
目標や責任感を持って仕事をする点においては、コミットメントもエンゲージメント も同じです。
大きな違いは、自らの意思をもっているかです。
コミットメントは「会社が従業員に対して与える約束」であるのに対し、従業員エンゲージメントは「自発的に企業への貢献のために行動する」という事です。
<モチベーション>
モチベーションとは、従業員自身の心理状態を指します。
対して、従業員エンゲージメントは従業員と企業との間の関係性を表します。
従業員エンゲージメント向上施策を実行するメリットは何でしょうか?
具体的な効果を4つ紹介します。
従業員エンゲージメントが高い場合、前向きなモチベーションが強く発揮されている状態であり、与えられた業務をこなすのではなく、自発的に仕事を見出し、積極的に取り組んでいく効果が期待できます。
また、エンゲージメントサーベイで従業員のコンディションをキャッチアップしながら、定期的にコンディションの変化を察知することが重要です。
急にスコアが悪くなった場合にも、1on1や面談など適切なフォロー対策を実施する事でモチベーションの維持向上が期待できます。
もっとも大きなメリットのひとつとして、従業員エンゲージメントが高い企業は業績が向上します。
世界各国でコンサルティングを手掛けるタワーズワトソン(『Global Workforce Study』)によると、従業員エンゲージメントが高い企業と低い企業では営業利益率に約1.5倍の差が見られる、という調査結果が得られています。
従業員エンゲージメントの高い組織では、一緒に働く同僚たちへの信頼感も高い傾向にあります。
自分のことだけを考えるのではなく、助け合って仕事へと取り組む雰囲気が醸成されるため、会社全体の成果という高い視点から物事をとらえて会社へ貢献できる従業員が育つことが期待できます。
従業員エンゲージメントの向上は人材定着にも影響を及ぼします。
アメリカコンサルティング会社CEB社調べによると「エンゲージメントの高い従業員は、エンゲージメントの低い従業員と比較すると離職率が87%も低い」という調査結果があります。
「働きやすさ」と「働きがい」は離職率に直結していると言っても過言ではありません。
厚生労働省の調査結果(平成26年)として職場環境が「働きやすい」と答えた人の中では「今の会社でずっと働き続けたい」と回答は63.4%だったのに対し、「働きやすくない」と答えた人の中では5.2%という結果が出ています。
また、「働きがいがある」と答えた人の中では「今の会社でずっと働き続けたい」と回答は73.5%だったのに対し、「働きがいがない」と答えた人の中では4.9%と約15倍も高かった調査もあります。
参照リンク:https://www.mhlw.go.jp/chushoukigyou_kaizen/investigation/report.pdf
従業員エンゲージメントを向上させるには、以下の5つの施策について取り組んでいる企業が多いです。
従業員エンゲージメントを高めるうえで、会社の「ミッション・ビジョン・バリューが作られているか」、「それを社内に浸透しているか」はとても重要です。
自分が担当する仕事が社会にどう貢献しているのか、どのような価値を提供できているのかが実感できるからです。
また、日頃ミッションをどのように意識しているか、ビジョンをいつ想起しているか、バリューはどのように普段の業務に落とし込んでいるか、各社員に言語化させることで、各々がミッション・ビジョン・バリューに沿った行動ができるようになります。
そのために、直接対話する機会を設けることも有効です。
社内の同僚やチームメンバーなどと良好な関係を築くことも、従業員エンゲージメントを高めるうえで役に立ちます。
社内で人とのつながりが感じられなくなり、コミュニケーション不全が起きると、会社への愛着心は低下してしまうので注意が必要です。
このチームで協力し合いミッションを達成したい、貢献したいと思えるような人間関係作りが求められます。
現在はコロナ禍でなかなかコミュニケーションが取りづらい環境ではありますが、プロジェクトの実行を部門横断的な形に組んだり、オンラインでのランチ交流会やイベントを主催したりするなど、社内のコミュニケーションが活性化するような仕組みを実施しましょう。
従業員エンゲージメントを高めていくためには、従業員に「会社はきちんと自分のことを認めてくれている」「自分を正当に評価してくれている」という意識を持ってもらうことも必要です。
人間の心理で、誰かに必要とされていると感じると貢献したいという欲求を抱きます。そのために人事評価の仕組みを整えることは非常に重要です。
マネージャーによっては、具体的なフィードバックなどが不十分になってしまうこともあるので、社内でマネージャー向けの評価面談の方法、フィードバックの仕方の研修を実施するなど注意しましょう。
どのような指標で人事評価を行うのか社員にきちんと伝え、こまめに評価のフィードバックの機会を設けることが大切です。また、最近は従業員エンゲージメントを高めるという意味でも、OKRや1on1という取り組みを導入している企業が増えています。
ただ単に福利厚生や職場環境を充実させても、社員満足度は向上しますが、一方的な指標にとどまってしまい従業員エンゲージメント向上に結びつけることは難しくなります。
しかし、ワークライフバランスをベースに、社員のニーズや働きやすさに合わせて制度や福利厚生、職場環境を改善していけば、モチベーションアップに繋がり、最終的にエンゲージメントの向上に結びつく場合があります。
ワーク・ライフ・バランスは「やりがいや充実感を得ながら仕事での責任を果たすと共に、ライフイベントにあわせて多様な働き方が実現できる社会」を目指しており、エンゲージメントの向上に通じる考え方がベースにあるからです。
ワークライフバランスについては下記の記事で詳しく解説しています。
「ワーク・ライフバランスってよく聞くけど何??WLBの定義や考え方について解説」
従業員エンゲージメントは、一般的には目に見えづらく、分かりにくい概念です。
従業員エンゲージメントを高めるための取り組みを実施しても、実際にどの施策が効果的だったのかを検証することが難しい傾向にあります。
そこで、定期的に従業員エンゲージメントをサーベイすることで、数値として可視化され、改善へと取り組むことができます。また、サーベイは定期的に実施する、という事が大切で、どの程度取り組みが進んでいるのか、従業員の意識に変化が生まれているか、会社の状況を定点観測することができます。
また、サーベイを実施することで離職を未然に防ぐ効果もあります。
柔軟な働き方が浸透した今、従業員エンゲージメントは今後の組織作りにおいて重要な指標となるため積極的に企業は取り組んでいます。
就活をするうえで、選考中の会社が自社の状況を可視化し、課題に対しての対策や、最適な打ち手を実行している企業はとても魅力的だと思いませんか?
会社の良し悪しを面接の印象などで判断するのではなく、根拠に基づいたデータから判断する。そういった企業選びも今後増えていくでしょう。
ぜひ参考にしてみてください。