商社と一口に言っても、国内大手から外資系まで、さまざまな企業があります。就職活動をしている学生の中には、商社の社員がどのような仕事をしているのかイメージが浮かびにくい方も多いのではないでしょうか。
今回は、商社とはどのような企業なのか、主な仕事内容や入社に向いている人の特徴とともに紹介します。
目次
商社とは、国内外の企業が手がける製品・サービスを、求める相手に販売する企業のことです。自社商品を取り扱うメーカーと、製品・サービスを買いたい小売業者をマッチングさせる、いわば企業同士の仲介役です。
商社は、大まかに分類すると「総合商社」と「専門商社」の2種類に分けられます。2社の大きな違いは、取り扱っている製品・サービスや分野の範囲です。
ここでは、総合商社と専門商社それぞれの特徴を解説します。
ひとくくりに商社と言っても、昔は「ラーメンからミサイルまで」、今では「ミネラルウォーターから通信衛星まで」と言われるほど総合商社では多くの商材を取り扱っています。
そのため、総合商社の事業内容についての理解が難しいとされています。
このような背景からも一度配属をされた部門から他部門に移動することはかなり稀なものとなっており、志望部門と別部門に配属され理想とのギャップに悩む新入社員も多いといいます。
逆をいえば、同じ部門で何年も働くことにより、その部門のスペシャリストを目指すことが可能です。
近年では、スペシャリストの育成はもちろんですが、幅広い知識を持つ人材の必要性も考えられるような意見も出ています。
これに対する反対派の意見としては、その道を長年極めた人物には知識・経験において勝てないという意見もあり、どちらが正解とは言えない状態です。
のちほどご紹介する、5大商社のうち三井物産はジョブローテーションを実施する考えがあるようです。
【部門例について】
出典:https://br-campus.jp/articles/report/127
ほとんどの商社では、同じ会社においても部門が変われば別会社の様であり、中小企業の寄せ集めの様な印象を持つ人もいます。
働き方についても部門によってそれぞれなので、配属先によっての合う・合わないは顕著に出てくるでしょう。
【5大商社について】
・三菱商事(https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/)
・三井物産(https://www.mitsui.com/jp/ja/)
・伊藤忠商事(https://www.itochu.co.jp/ja/)
・住友商事(https://www.sumitomocorp.com/ja/jp)
・丸紅(https://www.marubeni.com/jp/)
これら、総合商社の中でも特に事業規模が大きい5社は、「5大商社」と呼ばれます。
このどれもが人気企業として、業績についての比較はもちろんですが、どの分野に強いのかといった分析も必要です。
入社後の部門で仕事内容が大きく変わりますので、志望動機について部門で考えてしまうのは視野が狭まってしまう可能性があります。
その他、今後の動向として各企業の定める中期経営計画も併せて確認を行うと解決したい社会課題は何かだったり、そのために逆算を行い今している仕事の意味についても見えてくるでしょう。
そういったところまで確認を行っていると他の求職者との差別化もできるでしょう。
【中期経営計画について】
・三菱商事:https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/about/plan/
・三井物産:https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/about/plan/
・伊藤忠商事:https://www.itochu.co.jp/ja/about/plan/index.html
・住友商事:https://www.sumitomocorp.com/ja/jp/about/policy/mid-term
・丸紅:https://www.marubeni.com/jp/company/plan/
売上比率の50%以上が特定の商品で占められ、専門分野に特化した事業展開ができることが特徴です。
食品、天然資源といったものから生活用品等あらゆる商材を取り扱っています。
特定の分野に特化することでメーカーや顧客と強いつながりがあったり、専門的知識が圧ことが強みです。これらは専門分野によって分けられるほか、他社との関係性により分け分けられることがあります。
【メーカー系専門商社】
商品を製造するメーカーの販売部門が独立、または軸として設立した専門商社です。
取り扱い商品が限られますが、仕入れ先が安定しているため経営が安定しやすいというメリットがあります。また、独自のノウハウを磨くことができるので商品力が強みとなりますし、メーカー側の担当者との共有も密に行うので市場調査にともに出向くこともあります。
▼企業例
・花王カスタマーマーケティング(https://www.kao.co.jp/employment/kcmk/)
・日産トレーディング(https://nitco.co.jp/)
【総合商社系専門商社】
総合商社の特定分野を軸に設立されています。総合商社の子会社として、事業投資を受けて発足することもあるようです。総合商社では大規模な案件が主流のため、ニッチな商材や小規模な案件など総合商社で取り扱えない取引を担当しています。
とはいえ、事業形態は総合商社に似ており、海外での活躍も見込めます。
▼企業例
・伊藤忠丸紅鉄鋼(https://www.benichu.com/)
・三菱商事エネルギー(https://www.mc-ene.com/)
【独立系専門商社】
総合商社やメーカーに属さず、単独で事業を行っています。
仕入れる商品や営業先など、自由度が高いことが特徴で独自のコネクションや歴史を持っていることが多いようです。また、企業によって事業内容が異なることもあります。
たとえば、医薬品の専門商社が薬局を運営したり、メーカーに対して保有する専門的な情報やノウハウを活用し、新商品の開発を支援したりすることも。専門性を活かして、他分野に進出する商社は増加傾向にあるようです。
▼企業例
・兼松(https://www.kanematsu.co.jp/)
・阪和興業(https://www.hanwa.co.jp/)
商社のビジネスモデルは、トレーディング事業と事業投資の2種類です。
ここでは、それぞれの事業内容を解説します。
トレーディングは、商社における基本かつ伝統的な事業です。国内外で自社製品・サービスを売りたい企業と、買いたい他社の間を仲介して、仲介手数料や売買差益で利益を得ています。
例えば日本にあって海外にないものを輸出させたり、国内にないものを海外から輸入したりして、双方の企業の要望に応える事業もトレーディングの一種です。
商社がトレーディングを行うことで、メーカーは自社の力量ではカバーできない範囲で製品・サービスを販売できるようになります。また、海外の原材料を容易に入手できます。このようにメーカーの販売機会を拡大しつつ、買い手の需要にも応えることがトレーディングです。
しかし、近年は、メーカーなどの企業が自社で原材料や製品の輸出入を手掛けるケースが増えつつあります。自社で輸出入を完結させる企業が増えた結果、商社がトレーディングで関わる比率は減少傾向を見せています。
事業投資は、さまざまな事業に対して投資を行い、収益を最大化することです。
例えばエネルギー資源や鉱物資源を採掘・開発するためには、相応の資金が必要です。また、専門性の高い分野であればあるほど、高い技術・知識を有した人員も求められます。開発事業における商社の役目は、資金や人員などを提供する事業投資です。
商社が開発を行う企業に資金や人員などを投資すると、投資比率に応じた権益を確保できます。権益の多さは、分配される収益に反映されます。
投資対象は、石油・石炭などのエネルギー資源に加えて、鉄鉱石や銅鉱山といった鉱物資源、不動産、物流、環境、医療、インフラ、メディアなどさまざまです。完成した製品・サービスを販売するのみならず、原材料の調達から製造、流通、アフターサービスまで一貫して商社が関わる「バリューチェーンの構築」が行われています。
事業投資は、収益を得る商社はもちろん、投資先企業にとっても自社の企業価値を高めるメリットがあります。
メーカーは自社で製品を製造するのに対し、商社は流通を行ったり材料の発注を行うことが仕事です。
商社の仕事はトレーディングと事業投資の2つに分けられます。
どちらもBtoBの仕事で、需要と供給を結びつける仲介業者のようなイメージです。
ここで重要となってくるのが、付加価値(バリューチェーン)です。材料の調達だけでなく、加工、製造、流通、宣伝、販売といった一連の流れにも関わり、生産者にとっては売り手を拡大する役割を、メーカーにとっては需要を満たす調達をする役割を果たします。
事業投資とは、総合商社が新たなビジネスを創造していくための重要なアプローチ方法です。
企業を買収し、投資先企業の企業価値を最大化するために経営に総合的かつ継続的に参画します。コンビニエンスストアやスーパーマーケットの運営がその1つです。
共通ポイントサービスや決済サービス、顧客情報を活用したマーケティングなど、小売業の価値を高めるための投資を行っています。
商社で働く場合、いずれかの職種に就くこととなります。ここでは、主な職種と仕事内容を解説します。
営業は、商社の代表的な職種です。主に取引先を訪問して、契約交渉を行います。他業種の営業との違いは、一度に複数社とのやり取りを行うことです。
メーカーの営業の場合、製品を提供した顧客や小売企業など1社と向き合って商談します。一方、商社では製品を売りたいA社と購入したいB社、同時に2社と商談を進めることもあります。
商社の営業は、売り手と買い手をつなぐパイプ役です。2社の足並みを揃えつつ、交渉がスムーズに進むようにサポートします。営業先を飛び回るケースが多く、自社のオフィスに滞在する時間はほとんどありません。中には、オフィスに立ち寄らず外回り続きの営業担当者もいます。
営業事務・貿易事務は、どちらも電話対応や書類作成などデスクワークを主とする職種です。
商社における営業事務の仕事内容も、他業種の同じ職種とほとんど同じです。外回りでオフィスに戻る時間がない営業担当者に代わり、事務作業を行ってサポートしています。
ただし、海外企業との取引が珍しくない商社では、営業事務も語学力が求められます。基本的な英会話のみならず、事業に関連するビジネス会話ができるレベルが必要です。
海外事業の多い商社では、営業事務と分けて貿易事務を雇う場合があります。貿易事務は、海外企業から原材料や製品を輸入するときに生じる、通関手続きを担う職種です。輸入品の内容や取引した国ごとに異なるルールに則って、税関を通すための手続きを行います。
通関手続きには、語学力に加えて専門的かつ幅広い知識が必要です。
事業企画は、幅広いシーンで活躍できる職種です。新たな事業を立ち上げるときの企画立案を行ったり、提携・取引先を選別したりします。最適な取引先を見つけるためには、自社がどのような分野に進めば良いかを考えなくてはなりません。
事業投資における投資計画の立案も、事業企画の仕事です。バリューチェーンの構築によって取引先はもちろん、自社の利益を最大化する戦略が求められます。
また、企業経営に関わる企画や戦略の立案、課題解決のための施策も事業企画が担います。マーケティングもコンサルティングも手掛けるため、商社の花形と言われることも多い職種です。
商社は職種に応じて求められる語学力レベルや企画能力が高かったり、外回りが多かったりと、人によっては忙しいイメージをもちやすい業種です。一方で、商社で働くとさまざまなメリットも期待できます。
ここでは、商社で働く魅力を4つ解説します。
1つ目の魅力は、給与が高いことです。
全業種における令和5年(2023年)の大学卒の平均初任給は、 237,300円です。一方、大手商社は新卒の初任給が250,000円を上回ることが多く、他社に入社した同年代よりも高い給与を得られるチャンスがあります。
企業にもよりますが、優秀な人材の確保や短期離職対策の観点から、手厚い福利厚生が用意されていることも魅力のひとつです。業績に応じたボーナスや、手当も充実しています。
出典:厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査(新規学卒者の学歴別にみた賃金)」
2つ目の魅力は、グローバルな仕事ができることです。前述の通り、商社では取り扱い製品・サービスの特性上、海外の取引先とやり取りする機会が多くなります。幅広い分野を手掛ける総合商社の場合、新興国で資源や電力などインフラに携わるケースもあります。
新興国での事業は、日本と相手国との縁を結ぶ重要な仕事です。パイプ役として活躍することで、両国における社会貢献にもつながります。
語学力に長けていれば、海外出張のみならず、現地でプロジェクトメンバーとして長期赴任を指示される可能性もあります。実力が認められれば、海外支社でより多くの体験ができるでしょう。
3つ目の魅力は、規模の大きい案件に挑戦できる環境が整っていることです。海外企業との取引の場合、輸出入する製品は大型輸送船に大量のコンテナを積み込んで運ばれます。輸出入に関わる手続きの複雑さなどで専門性の高い仕事を体験できます。
取引商品によっては、国民の生活に深く関わることも珍しくありません。自分が関わった製品が多くの人々の日常生活で役立てられていることを、さまざまな場面で実感でき、やりがいにつながります。
金銭的な規模が大きい点も、商社ならではの特徴です。案件次第では、一度に何億円・何兆円ものお金が動くこともあるため、担当者の責任も達成感も大きくなります。
4つ目の魅力は、幅広い分野でスキルを身に付けられることです。
商社は卸売りや投資、製造など関わる仕事の範囲が広く、さまざまな分野で業務経験を積める業種です。総合商社では多岐にわたる分野に知見を広げられ、専門商社では特定分野においてエキスパートを目指せます。
また、海外企業とのやり取りや新規分野の開拓などで、コミュニケーション能力や交渉力も身に付きます。プロジェクトメンバーとして活躍し、リーダーシップを身に付けたい方にも最適な環境です。
魅力の多い商社にも、注意点がいくつかあります。ここでは、商社へ入社を決める前に把握しておきたい注意点を3つ解説します。
商社は世界であれ国内であれ、各地の企業・団体を相手に仕事をするため、出張業務が多い業種です。プロジェクトによっては、頻繁な海外出張や長期の海外駐在となる可能性も考えられます。海外への出張や転勤、異動の多さは、総合商社と専門商社の両方に共通する特徴です。
総合商社の場合、取り扱う製品・サービスが多いため、広範囲の地域でスムーズに事業を進めるために、海外で活躍する人材が求められます。専門商社では、取引先の開拓や交渉で海外出張を行うほか、現地の品質管理や人材教育のために海外駐在してくれる人材が必要です。
取り扱う製品・サービスに応じて、行先が新興国となることも珍しくありません。
部門部署に関係なく、商社の社員は仕事量が多い傾向にあります。幅広い業務を担ったり専門性の高い仕事が多かったりと、残業になることがほとんどです。給与が同年代よりも高い分、期待される能力も必然的に高くなります。
仕事量が多くなる要因のひとつが、常に勉強して知識をアップデートする必要があることです。同じ製品でも、機能やデザインがリニューアルされれば都度、新しい情報を学ばなくてはなりません。定期的な勉強会や説明会への参加、担当者との打ち合わせが必要です。
前述の通り、商社は1回の取引で動く金額が大きいのが特徴です。社員の知識や技術が売上に直結するからこそ、相応の責任感も生じ、それゆえに激務に傾斜していくこともありえます。
他業種、特に新興の企業や小規模な企業に比べると、歴史のある商社は年功序列の文化が残っているところが多いといえます。若手の積極登用や抜擢人事は少なく、ほとんどの若手人材は、大きなプロジェクトを任されることはありません。
商社で求められるのは、堅実に積み上げられた知識・技術です。入社後は基礎的な業務につき、実力を身に付けてから徐々に任される仕事の規模が大きくなります。地道な下積み時代が必要な業界です。
年功序列の風土は、総合商社と専門商社のどちらにも残っています。どちらかと言えば、専門知識を求められる分、専門商社のほうが比較的早い段階から、若手も活躍しやすい傾向があります。
商社は、自分を成長させるための環境が揃っています。ただし、向いていない人材が入社しても、環境のメリットを最大限に活用できない可能性があります。
商社へ入社するにあたって、重視すべき点は相性です。ここでは、商社の仕事や環境に向いている人の特徴を3つ解説します。
商社で活躍するためには、コミュニケーション能力が必須です。既存パートナー企業との新たな契約を成立させるのみならず、ときには新しい取引先を開拓しなくてはなりません。
契約の締結や新規開拓を行うにあたり、相手のニーズを汲み取って最適な提案をするための高いコミュニケーション能力が求められます。
プロジェクトの規模が大きければ大きいほど、社内においても多くのチームメンバーと頻繁にやり取りを行うこととなります。関わる人数が増えれば、必然的にコミュニケーションの難易度は高まるでしょう。
それぞれの立場を考慮しつつ円満にプロジェクトを進行できるように、相互理解を促すようなコミュニケーション力が求められます。
商社の膨大な仕事量を難なくこなすためには、体力やストレス耐性も欠かせません。国内外を飛び回る商社の社員は、場合によっては時差ボケと戦いつつ働くこととなります。移動回数や仕事量が多くても、元気に働ける体力が必要です。
アクティブさが求められるうえ、責任ある仕事を任されるケースも多いのが商社です。責任に押し潰されずに働けるほど、強いストレス耐性も求められます。
商社では肉体の体力に加えて、精神的な体力も大切です。海外企業との取引も多い商社は、1件1件のプロジェクトが長期化することも珍しくありません。
長いやり取りの中で人間関係がこじれたり、予期せぬトラブルでスケジュール通りに開発や契約が進まなかったりする可能性もあります。商社の社員には、プロジェクトが長期化して多くのトラブルを抱えても、逃げずに最後までやり遂げる力が必要です。
商社は、国内外の企業間のパイプ役を担う存在です。卸売りすることもあれば、自社の製品・サービスを売りたい企業に投資の一環で資金やノウハウ、人材を提供することもあります。自社で原材料の調達や製品・サービスの販売を行うメーカーが増えている現代においても、さまざまな方面で商社の力が求められています。
商社は給与が高水準となっている分、仕事量が多い企業です。体力・ストレス耐性があり、多くの体験を通して、幅広い分野で成長したい方に適しています。